INTERVIEW

京の宿 綿善旅館

那須 ほの香 氏

「お客様を私のファンに!」
京都が大好きな仲居さんが
心がけていること

着物姿と笑顔で旅行者を魅了する旅館の仲居さん。
憧れはあるけれど、どの時間帯にどんなお仕事をしているのか、実際のところはわからない、という方も多いかもしれません。
そこで、京都にある「京の宿 綿善旅館」で客室係を勤める那須ほの香さんに、日々の仕事のことや心がけていることなどをインタビューしました。

旅館の客室係の仕事内容とは?

現在入社2年目で客室係、いわゆる仲居として働いています。私たちの仕事内容は時期によって大きく変わります。例えば、9月や10月の平日はほとんど修学旅行の受け入れで、週末だけ一般のお客様(家族旅行やグループ旅行等)という感じになります。年間140日程度修学旅行のお客様がお見えになります。

一般のお客様の場合、朝に出勤し朝食の準備や片付けなどを担当しチェックアウトの10時頃まで勤務します。その後、いったん帰宅し16時まで休憩時間を過ごし、夕方以降に備えます。職場に戻ると、担当のフロアで待機。チェックインされたお客様をお部屋までご案内します。夕食担当の場合は着物姿で、お部屋でお飲み物やお茶菓子を提供しながら館内のご案内をさせていただきます。夕食時間は17時半から19時半なので、間に合うよう地下の調理場から料理や食器類を運び、会場のセッティングをします。

修学旅行対応の場合も、生徒さんの行動に合わせて早朝からの勤務になります。決められたスケジュールに沿って、朝一番でお布団を上げるところから始まり、朝食の準備、片付け、客室の整備と続きます。午後の休憩後は、生徒さんたちのバスのお迎えから始まります。スタッフ全員で協力し合って、調理場での準備から片付けまで全てをこなしています。スケジュールがきっちり決まっているのが一般のお客様との一番の違いです。私たちがテキパキ動かないと予定通りにいかないので、修学旅行のときも常に動き続けていますね。

宿泊業に入ったきっかけは?

京都の旅館で働こうと思ったきっかけは、大学時代に京都が大好きになったからです。もともと愛知県の出身なのですが、大学時代を過ごしていた名古屋から京都は30分程度と近いのでよく京都に遊びに来ていました。鴨川沿いを歩くだけでも四季を感じられて、この景色が日常になったらいいなと思ったんです。

大学では心理学を専攻していましたが、臨床の仕事は合わないなと感じるように。周りが大学院進学を選ぶなか、私は「楽しい時間に関わる仕事がしたい」と考えました。学生時代の雑貨屋や飲食店でのアルバイト経験から、接客業が好きで自分に向いていると直感。大好きな京都で接客業ができないか、と考えて今の仕事を志望しました。

職場の綿善旅館は、お客様との距離がとても近いのが特長です。HPにはスタッフ紹介があって、私は「なすりん」というニックネームで掲載されています。お客様と仲良くなれる機会が多く、廊下で会えばハイタッチすることも。お客様に「こんなに仲居さんとお喋りしてもいいんですね!」とびっくりされることもありますが、「京都でなすりんに出会えてよかった!」と思っていただけるような接客を心がけています。

仕事をしていてやりがいを感じるのは?

この仕事の魅力は、何と言ってもお客様の喜ぶ姿を直に感じられるところです。特に心に残っているのは、とある韓国のご家族とのエピソードです。お父様、お母様、小さな娘さん達という家族構成で英語が話せるのはお父様だけでした。

私は夕食担当としてお料理を持っていくたびに、「今日はどこに行ったんですか?」など話しかけていました。言葉はなかなか通じなかったのですが、娘さんともコミュニケーションを心がけました。すると不思議と娘さんが私に懐いてくれて、お帰りの際には泣きながらハグしてきてくれたんです。一緒に写真を撮ろうと記念写真も撮っていただきました。

体力的にはしんどい面もあります。食器や布団の持ち運びなど、力仕事も多いですからね。でも、接客の仕事は一期一会。お茶菓子を出すときの会話、館内をご案内する際のコミュニケーション、そのたった数分や数秒の交流がお客様にとってかけがえのない時間になるかもしれません。私たちにとっては日常の業務かもしれませんが、お客様にとっての特別な思い出づくりのお手伝いができる。そんなやりがいが感じられる仕事です。

今後の目標は?宿泊業界を目指す方へエールを

私の目標は、「出会ってくださったお客様全員を私のファンにする」です。でも、まだまだ足りないことばかりです。広間での宴会やご年配のお客様への対応など、理想のサービスがあるはずなのに言葉が足りなかったり、気配りが足りなかったりして落ち込むことも。女将さんとも、どうすればより高いレベルの接客が実現できるか、よく話し合っています。

休日でカフェなどに行くときも、お店の方の接客の様子をよく見ていますね。「こんな英語のフレーズがあるんだ」とか「このタイミングでお水を注ぐんだ」とか考えています。大好きな京都のことも、どんな話をすればお客様が喜んでくださるかを考えながら日々勉強しています。自分の中の引き出しを増やすことで、お客様を楽しませる工夫の幅も広がりますしね。

最初の頃は業務を覚えるので精一杯で、接客中も自分のことばかりを話してしまったりしました。でも、今では少し余裕を持って対応できるように。この仕事で得られる喜びは本当に計り知れません。興味を持っている方は、ぜひ飛び込んで欲しいと思います。大変なこともありますが、それ以上にかけがえのない経験ができる素敵な仕事だと私は自信を持ってお勧めできます。

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