INTERVIEW
(株)当間高原リゾート ベルナティオ
佐野 智之 氏
利用したことはあっても、働くとなると未知の宿泊業。
知りたいことやわからないことがたくさんあるのではないでしょうか。
ホテリエ(ホテルで働く人のこと)一筋でキャリアを重ねてきた「あてま高原リゾート ベルナティオ」統括総支配人兼事業統括室長の 佐野智之さんにこれまでのこと、仕事の魅力、今後のことなどを聞きました。
宿泊業に入ったきっかけは?どんな仕事?
現在、あてま高原リゾート ベルナティオで事業全体のマネジメントをしております。リゾートホテルの運営をはじめ、新規事業として宿泊業界のご支援やコンサルティング、講演活動など幅広くお仕事させていただいております。私どもはチェーンのホテルではなく1軒しかありませんので、様々な事業にチャレンジして新陳代謝を図り続けたいという思いがあります。
私はもともと接客業に興味がありました。漫画の登場人物のモデルになるほど接客が優れたドアマンの方に憧れて、ホテリエの道に進みました。以来、主に宿泊部門に18年間勤務でしたが、総支配人という仕事にもチャレンジして取り組むようになり、現在の統括総支配人の仕事に至っています。
キャリアを通して様々なことを学んできましたが、一番大きかったのは「クレーム対応はチャンスだ」ということ。実は私、クレーム対応が大好きでクレーム対応ばかりを率先して担当していたんです。一般的にクレーム対応はしんどくて避けたい仕事と思われています。ところが、私はお客様と仲良くなれるチャンスだと捉えていました。
お客様は関心がなければ不平を伝えてきません。その声に自分なりに真摯に向き合うことでお客様の信頼を得て、最終的には多くのお客様と良好な関係を築くことができました。お客様のおかげで今の私があると感じているので、本当に感謝しかありません。
未経験でも問題なし?福利厚生は?
私が長年、携わってきた宿泊業はコロナ禍を経て空前の人材不足に陥っています。多くの方に新たに仲間入りしていただきたいと心から願っていますが、わからないことも多いと思うのでよくある質問に答えていきます。
まず「未経験でも問題ないですか?」という質問。これはもう大歓迎です。かえって未経験で先入観のないまっさらの方が入りやすい業界だと思います。会社ごとに様々な研修の制度も用意。弊社の場合、総支配人直属のチームに入って一年しっかり学んでもらっています。この業界の離職率が高くなってしまう背景に、接客業と言いながら作業化してやりがいが失われてしまうという課題があります。かつては業務に当たりながら仕事を覚えるだけ、が当たり前でしたが、近年は教育に注力する会社が確実に増えてきています。
次に「英語は必要ですか?」という質問。これはインバウンドに力を入れているところに関しては、やはり英語は必須だと思います。ただ、最終的に英語力よりホスピタリティです。それさえあれば会話は成り立ちます。もちろん、英語力はあるに越したことはありませんが、それ以上にホスピタリティが大事なことはぜひ頭に入れていただきたい。英会話もネイティブを目指すわけではありませんから、必要以上に不安に思わないでください。
「業界の福利厚生は?」という質問は各社異なるので回答が難しいというのが本音ですが、人財が何より大事というのが共通認識となり、福利厚生を充実させていこうという動きになっていることは間違いありません。有給取得率なども今は法令遵守が大前提なので心配無用です。業務上どうしても週末勤務や夜勤が発生します。これに関しては平日が休みのメリット、夜勤ならではのメリットに目を向けられる方が宿泊業に向いていると思います。
リゾートホテルの仕事内容とは?
広く宿泊業全体のことについて話してきたので、続いてリゾートホテルの話をしたいと思います。
フロントの基本はチェックイン・チェックアウト業務です。また、スタンバイ状態を保つのも仕事のうち。およそ準備が8割できていれば当日、うまく業務が流れていきます。お客様を迎え入れるまでの事前準備が非常に重要です。リゾートホテルは朝食ビュッフェが多いため、フロントなど別の部署が手伝いに入ることも多々あります。そんなとき、シフトありきでヘルプに入るのではなく、仲間が困っているところに自発的に行けるような方が向いていると感じます。
チェックアウトが終わると、一旦会計処理など事務的な業務が入り、その後はチェックインの準備です。鍵のチェックや客室の清掃、電話対応などをこなしお客様をお迎えします。早番で朝食準備から入るスタッフはここで遅番に引き継ぐことが多いですね。リゾートホテルの場合、周辺の観光情報を伝えるのも大事な仕事の一つです。常に最新情報を入手することを心がけています。
リゾートホテルに限りませんが、宴会対応も重要な業務です。以前は売上のために直前の宴会でも無理に入れるケースが多かったのですが、最近はシフトファーストでスタッフの稼働を確認したうえで1ヵ月を切る案件はお断りするケースも増加してきました。売上とスタッフの心理的安全性を天秤にかけ、後者を選ぶ事業者が増えていることはいい傾向だと私は思います。
どんな求人に応募したらいい?
宿泊業に興味は出てきたけれど、どんな求人が自分に合っているかわからない。という悩みはあるかと思います。
これに関して私は「バックヤードを見せられないホテルはやめた方がいい」という明確な持論があります。応募する際には、一度自分でそのホテルに宿泊することをおすすめしたいですね。そこで表の雰囲気を感じ取り、面接などではバックヤードのスタッフが使用するスペースやスタッフ同士の関係性に注目しましょう。上司にはスタッフの成長シナリオをどう考えているのか、という点も聞いておきたいところです。1 年目、2 年目、3 年目と成長シナリオが描ける企業だと感じたら、ぜひチャレンジしていただきたい。
それと、面接の際に部活動があるかどうか聞くのも有効です。というのは、部活が多くて活発な企業はチームワークがよくて良い職場である傾向があります。ホテルはスタッフ同士のチームワークが非常に重要。そのチームワークの源泉が実は部活だった、というのは意外とよくある話です。
宿泊業に新たに入ろうという方の中には「接客業を始める」という意識があるかもしれません。もちろん間違ってはいませんが、私は「関係者づくりを行う」という視点を持っています。私はよくスタッフに「お客様に関心を持ちなさい」と伝えます。そこから全てが始まるのです。何気ない会話からコミュニケーションが生まれ、関係性が築けるとお客様は私たち、人に会いにホテルにやって来るようになります。そこに幸せを感じられる方には本当におすすめできる業界です。
仕事の魅力と今後の目標は?
私たちの仕事はよくサービス業と言われることが多いのですが、サービス業はどこか一方通行のニュアンスがありませんか。「お客様のニーズに応える」がサービス業であるなら、私たちの仕事はホスピタリティ業と言えるかもしれません。スタッフがお客様と一緒に楽しむテーマパークのイメージが近いのです。一緒にお客様と楽しい時間を過ごし、共感し合う。そういう関係性がどんどんでき、人脈が広がっていくのが宿泊業。こうなってくると、もうやめられない仕事だなと感じます。
こういった仕事を私たちが続けて行けば自然と「楽しそうな業界だな」「この仲間に入りたい」といった気持ちが湧いてくるはず。私たちはそういった憧れられるような宿泊業にしていかなければならないと思います。今はまだ宿泊業の魅力をまだ伝えきれていないので、そこはコツコツ努力していく所存です。
自分の職場が誰かにとっての大切な場所に変わり、自分もお客様にとっての大切な人に変わる。私にはたくさんのお客様を超えた関係者がいらっしゃいます。そういう方たちはたくさんの新しいお客様を連れてきてくれますし、私たちに代わってロビーのゴミ拾いをしたり、壁の絵が曲がっているのを直してくれたりしますよ。心からやりがいのある仕事です。皆さんの仲間入りをお待ちしております。